ダンジョン・コンツェルト ― メイド服にご用心? ―〈Chapter 1〉

ダンジョン・コンツェルト ― メイド服にご用心? ―

 

〈Chapter 1:ドタバタ冒険記、開幕!〉

 昼なお暗い地下迷宮(ダンジョン)の奥底で
 今日も繰り広げられる、甘美な宴と熾烈なバトル――。

 この物語は、魔法使いネア、僧侶サムソン、剣士クリンの3人の『始末屋』たちにより紡がれる、数奇なる運命の記録である。


 シュライヴガルド王国。
 ライデンシャフト大陸の南端、穏やかな内海に抱かれる、古より栄えし魔法大国。

 その王都ウルムより、さらに南に100マイルほど進んだ場所に、打ち捨てられた寺院跡があった。

 かつては名だたる貴族の陵墓として、数百年は利用が出来るようにと建設された巨大な地下墓地だったが、一族の没落とともに地上に建っていた寺院も荒廃した今では、幽霊屋敷さながらの不気味な空気を漂わせているのみである。

 邪悪なモンスターが徘徊し、冒険者や無頼の賞金稼ぎたちの行き交う、文字通りの地下迷宮。

 その一角に――なぜか、不釣合いなほどの真新しい小屋が建っている。
 華美な装飾の施された門前には、退屈そうにたたずむふたつの人影。レベル上げにきた冒険者たちにも見えるが、どうも様子がおかしい。

 先に口を開いたのは、小柄な少年のほうだった。

「あーあっ。それにしても暇だよね、サムソン」

 若草色の甲冑を身にまとい、腰に細身の剣を携えた姿は、彼が剣士であることを示している。
 歳は15、6といったところか、幼さの残る顔立ちは、まるでいたいけな少女のよう。ポニーテールにまとめられたはちみつ色の長髪がふわりと揺れる。

 視線を向けると、同じく門の前に立っていたサムソンと呼ばれた男が答えた。

「んん~、そうねぇ、クリン。もう丸二日になるかしら、最後の『エモノ』がここを通ってから?」

 女のような口調に似合わない野太い声。
 上品な紫色の僧衣の上からでも、鍛え抜かれた強靭な肉体が見て取れる。2メートルを遥かに超えると思われる長身に、漆黒の短髪。
 歳は30代半ば、武闘家まがいの僧兵といったところだろう。

「あたしたち、一体いつまで、ここで足止め食らってなきゃなんないのかしら…」
 あくび交じりにサムソンがつぶやいた、その瞬間――。

 背後の建物の中から、ものすごい勢いで足音が近づいてくる。そして。

「オラァ!」

 爆音と共にドアが吹き飛び、竜巻のような真紅の炎が、あくびの途中で口をあんぐり開けたままのふたりの身体を呑み込んだ。

「んま! 何なのぉ!」
「熱っ! ちょ、ネアさん!?」

「サムソン、クリン! さっきから、黙って聞いてれば好き勝手言って!」

 言葉とともに、水晶球を冠した杖を片手に建物から飛び出してきたのは。
 およそダンジョンには似合わない、白のブラウスと黒のミニスカートに、フリル付きのエプロンとヘッドドレス……メイド服姿の美少女だった。

 名前を、ネア。歳は17、8か。少々くせのある流れるような真紅の長髪が、気の強そうな顔立ちに映えている。
 先ほどの炎の威力を見ると、相当高レベルの女魔法使いのようだ。

「いやんっ、ネア、落ち着いてぇ~っ!」
 両の手のひらを自分の頬に当て、身体をくねらせるサムソン。

「ネアさん、怒ると小じわが増えますよっ!」
 何気に逆効果なクリン。

「こんなダンジョンで足止め食らってるって…?」
 ピクピクと口元を引きつらせるネア。その怒りがついに限界に達し。

 天高く掲げられた水晶球から、先ほどとは比べ物にならないほどの炎がほとばしった――。

「もとはといえば、全部あんたらふたりのせいじゃないの―――っ!!」

  → Chapter 2