ダンジョン・コンツェルト ― メイド服にご用心? ―
〈Chapter 2:メイド服にご用心?〉
この騒動より、時をさかのぼること10日。
ネアたちの住むシュライヴガルド王国の国王より、3人へと新たなる命が下された。
「ダンジョンに潜むドラゴンを討伐せよ!」
『始末屋』を称する彼らは、こうして王や庶民の依頼を受け、モンスター退治やトレジャーハント、人捜しなどを行うことを生業としている。いわば「王都のよろず請負い集団」である。
だが、今回ばかりは相手が悪かった。
推定年齢500歳、ダンジョンの最奥に潜み世界征服を企む巨大なドラゴン…。
なす術もなく撃退され、瀕死の状態で最寄の教会へ担ぎ込まれた3人だった。
「だから、言ってやったのよ。いきなりあんなのに勝てるかぁ―――! って」
グラスのテキーラを一気に飲み干すと、レモンをくわえカウンターに突っ伏すネア。すでに相当出来上がっている。
ここは王都の繁華街、マキシミリアン通りに店を構えるバー『シュロス』。彼女にとって保護者代わりともいえる初老のマスターが切り盛りしており、『始末屋』の集会所兼、情報収集場所でもある。
「ネアちゃん、これ以上は身体に毒だよ?」
グラスを拭きながら苦笑するマスター。面倒見のよさげな雰囲気がにじみ出ている。
「そういや、あのふたりはどこ行ったのよ?」
オカマ僧侶のサムソンと、美少年剣士のクリン。幾多の修羅場をともに駆け抜けてきた、『始末屋』仲間だ。
ついさっきまで、同じカウンターで飲んでいたはずだったが。
「まったく…揃って何してんだか」
その言葉と同時に、ドアベルが高らかに鳴り響き、ふたりが店へと入ってきた。
「ただいま、ネアさん」
「んふふっ。いいもの買ったわよぉ~」
よからぬ笑みを浮かべるサムソンの服装を見て、一気に椅子から転げ落ちるネア。
「なっ、何よその格好!?」
「いやんっ♪ ただのナース服(ピンクのワンピース・女性用)じゃないのぉ」
「どこの世界に、筋骨隆々スネ毛ボーボーの白衣の天使がいる!?」
「んん~、だからぁ、こ・こ・に……ごはぁッ!?」
ネアの相棒である杖〈キステラ〉の水晶球が、サムソンのみぞおちにめり込んだ。
床に倒れ込む最終兵器ナースを軽くスルーし、にこやかに微笑むクリン。
「コスプレオカマッチョは放っといて、ネアさんにも服のお土産があるんですよ」
そういえば、つい最近この通りにオープンした仕立て屋の噂は、ネアの耳にも入っていた。
包みを受け取り、開けてみると…そこにあるのは、目にもまぶしい黒×白×フリルのメイド服。ネアはこめかみを押さえた。
「なんで、あんたまで毒されてんのよ」
「いいから、説明書を読んでみてください」
「説明書ぉ?」
しぶしぶ付属の紙切れに目を通したネアは、仰天した。
「魔法力+20000、防御力+15000!?」
「そうなんです。見た目によらず、すごい戦闘服でしょ?」
「すごいも何も…これならドラゴンとだって互角に戦えるわ!」
すくっとカウンターから立ち上がったネアは、着ていた真紅のローブに手をかけると、それをおもむろに脱ぎ捨てた。
あらわになる、下着と見紛う簡易型の黄金の甲冑に縁取られた、バランスの取れた肉体。
豊かなふたつの膨らみが、獲物を誘う甘い谷間を作り出した。
「おぉっ!?」
他のテーブルの酔っ払いたちが、一目その肢体を拝もうとカウンターに殺到する。
と、前方に、黒い巨大な人影が音もなく立ちはだかった。
「――あぁん? テメーら…ネアの裸を覗こうなんざ、百万年早ぇんだよ」
突然声音を押さえ、男言葉で凄むサムソン(でもナース服)。こめかみに浮かんだ血管は、既にブチ切れる寸前である。
巨漢の荒僧侶を力で止められる者は、少なくともこの場にはいない。
「だめだよサムソン。まだ報酬ももらってないんだし、店を破壊するようなことは」
なだめに入るクリン、と思いきや。
「ま、無防備なネアさんにこれ以上近づくっていうなら、僕も正気でいられるかはわからないけどね…」
細められた目の奥に宿る冷たい炎。少女のように愛らしい薄紅色の唇が、吐息とともに突如凶悪な方角へと捻じ曲がった。
それはさしずめ、天使の皮をかぶった悪魔の微笑。
一気に酔いが冷め、すごすごとテーブルへ引き返す客たちであった。
「…あらっ?」
正気を取り戻したサムソンが、ふと拾い上げた先ほどの説明書に目を通す。
「これ、裏にも何か書いてあるわよぉ」
「え? 気づかなかった」
横から覗き込むクリン。その直後、ふたりの顔から、一気に血の気が引いていった。
「ね、ネアっ! 待ちなさ……!」
「い…いやぁぁぁぁぁぁ―――っ!! か、身体が勝手に…!」
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