ダンジョン・コンツェルト ― メイド服にご用心? ―〈Chapter 3〉

ダンジョン・コンツェルト ― メイド服にご用心? ―

 

〈Chapter 3:呪いを解除せよ!〉

 突然の叫び声に、騒がしい店内が一瞬にして静まり返った。視線の中央で、力なく床に崩れ落ちるネア。

「ネアさんっ、脱いで! その服は危険だ!」
 剣を抜いたクリンがエプロンの紐を断ち切ろうとするが、刃は結界にでも触れたかのように弾き飛ばされる。

 彼女の言葉どおり、この可憐なメイド服が、ネアの身体を支配し操ろうとしているのか。

「目には目を、魔法には魔法を…。どいてちょうだい、クリン!」

 右手を真っ直ぐ前へと伸ばし、軽く左手を添えるサムソン。まるで武闘家のような迫力だが、中身はれっきとした僧侶だ。(この際、ナース服は見ないことに)
 手のひらに、青白い聖なる力が集約される。

「邪悪なる呪いよ、消え去…」

 解除魔法を唱えきるより早く――ネアの身体が、風のように消える。

「なっ!?」

 予期せぬことにひるむサムソン。次の瞬間には、唇が触れ合うのではと思うほどの距離に、美しいネアの顔が迫っていた。

 潤んだ瞳は欲望に血走り、口元は血肉を求める獣のように淫らに歪んで……

 という展開なら、色っぽいのだが(ぇ

 目の前にあるのは、いつものネアのイメージとは180度逆の、小動物のような幼い笑み。

「(*^ω^*)にゃはっ☆」

「!!!!!」

 サムソンとクリンの顔が劇画調に歪み、思考が停止した。
 操られているとはいえ、とてもネアの口から飛び出すとは思えない萌えゼリフ。

「(*^ω^*)お帰りなさいませ、ご主人様♪ まずはお風呂になさいますか、お食事になさいますかぁ? うにゅぅ~、それとも……」
「嫌な予感…」
 つぶやき後ずさる、クリン。

「(*^ω^*)メイドの女体盛り?」
「イヤァァァッッ!!!」

 サムソンの全身が総毛立ち、滝のような冷や汗と涙が噴き出した。相当ショックが大きかったようだ。

「そんなのネアじゃないっ! 5年前、初対面のあたしを魔法どころか拳ひとつで教会送り(瀕死)にした、生まれながらの破壊王はどこ行ったのよ!? キィーッ!!」
「…そうだったんだ…」

 忌まわしき過去。またひとつオカマを脅すネタができたと口元を歪ませる腹黒美少年剣士の横から、マスターが恐る恐るたずねた。

「一体どういうことだい? あの衣装は…」
「これです」
 手にしていた紙切れを渡すクリン。

 メイド服に同封された説明書、その裏に消え入るほどの薄い文字で記されていたのは、あまりに衝撃的な内容だった。

『ご注意:
 この戦闘服は、呪われたメイド服を改造して作られています。
 服自体が意思を持ち、着用者の人格を操作します。
 表記の魔法力・防御力を最大限発揮する、またはこの服を脱ぐためには、着用した本人の手で呪いを解かねばなりません。
 その方法とは…』

「そ、その方法とは…!?」
 ゴクリとつばを飲み込むマスター。

『1000人の“ご主人様”に、ご奉仕すること』

「(*^ω^*)はぁーいっ☆ ネア、ご奉仕しちゃいまぁす!」
 きゅぴんっ☆ とウィンクしながら敬礼したと思うと、ネアは華麗な手さばきでテーブルへ料理を運び、食べ終わった後の皿を片付け始めた。

 呪いの害があるどころか、本人よりも気立てのよい人格が乗り移り、客たちはメロメロである。
 ただし、調子に乗ってボディタッチしてきた酔っ払いたちの顔面には、容赦ないハイキックが見舞われているが…(無意識にか?)。

 ほっと胸をなでおろすマスター。

「なんだ、呪いというからどんな恐ろしいものかと思えば…。このままうちで、ウェイトレスとして働いてもらってもいいんだよ? ネアちゃんほどの可愛い子なら、願ったり叶ったりだ」
「うーん。でも、明らかにあれ、ネアさんの意思じゃないですからね」

 王様からの依頼も、早急に片付けねばならないし…。
 やっかいな問題を呼び込んでしまったことは確かなようだった。

 サムソンが泣きながらネアを追いかけ、喧騒を取り戻したバーのカウンターの片隅で――。
 クリンは、他の誰にも見られないように、手のひらの中の小さな紙片をそっと開いた。

 マスターに手渡す直前に、先ほどの説明書から破り取ったかけらだ。

「さすがに、これは無理だよね…」

 呪いを解く方法とは、1000人の“ご主人様”にご奉仕すること。

『または

 この服を着用者へ贈った者と――』

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