ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―〈Chapter 11〉

ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―

 

〈Chapter 11:新たなる旅立ち! 友情は永遠に〉(最終話)

 それから数日――。
 時間は飛ぶように過ぎていった。

 もともと女シーフを捕らえることが、今回の『始末屋』の任務。ネアたちとともに、蘭は国王のもとへ出頭した。

 本来なら、正規の手続きを踏まず密航船にて入国した罪により、本国へと強制送還されるところだが…日本は現在、鎖国状態。
 国王が裏ルートで手を回したらしく、日本の隣国へと立ち寄る貿易船に、おまけで同乗できることとなった。

 そして、亡命者であった凛と蓮もまた、強制的に日本へと送り返されることになったのだった――。


「あ、いたいた! 見送りに来たわよ!」
 すっきりと晴れ渡る早朝。荷積みでにぎわう港の一角に、ネアの声が響く。

 タラップの前。大きな風呂敷包みとボストンバッグを抱え、出航時刻を待っていた蘭、凛、蓮の三姉妹であったが。

 駆けてくるネアの姿を見た途端、揃ってがっしりと手を取り合い、喉の奥を「ひっ」と鳴らして震え上がった。蓮はガチガチと歯まで鳴らしている。

 ばつの悪そうに腕を組むネア。
「なによ…あの時のこと、まだ根に持ってるの?」

「根に持つっていうか…一生のトラウマになると思うわよ」
 同情するようにつぶやくサムソンと、隣で頷くクリン――。

 あの日、日の出とともにひとときの眠りから覚めたネア。蘭と凛が必死で謝罪し、自分たちの暴挙を止めてくれたことへの感謝を述べた。

 これからは姉妹3人、力を合わせて一族を守り、互いの夢を尊重し合って生きていくと――。

 …しかし。そこでハッピーエンドとはいかなかった。

『誰が許すって言った?』
『はひ?』
 容赦なく降りかかる声。きょとんとするふたりの目の前で、悪魔も裸足で逃げ出すような凄まじい形相で、ボキボキと指の関節を鳴らしているネア。

 買ったばかりのベルベットのローブは無残にも破れ去り、下着と見紛うセクシーな簡易型の甲冑のみの姿が、迫力を倍増させている。

『あいにく、恨みは100万倍にして返す主義なのよね…』
『ぁ…』

 ガタガタと震えだす蘭と凛の前で、ネアの杖〈キステラ〉が鋭く宙に六芒星を描く。その周囲に、炎のように紅く揺らめく複雑な魔法陣が出現した。

『いやん…あれって禁断の古代魔法じゃ…?』
『ちょ、ネアさん!?』
 止めるそぶりは見せるものの、あまりの強烈な魔力に、恐れをなして後ずさるサムソンとクリン。

 異空間への扉が開かれる。その向こう側から、明らかにこの世のものとは思えない、魔物の低い咆哮が響いてきた――。

『さぁ、どっちが先に喰われたいの!? 言ってみなさいよっ!』
『あ――――っ!!』

 その後、なんとかサムソンとクリンがネアをなだめ、召喚された魔物には丁重に元の世界へお帰りいただいたわけだが…。

 得体の知れぬモノに丸呑みにされかけた恐怖は、きっと一生消えない。偶然側にいて道連れになった蓮は、いい迷惑だ。

「くすん…。ほぁぁ~っ! 僕は帰らないのですっ! クリンさまと一緒にいたいのですよ~!」
 堰を切ったように泣き出す蓮。相当クリンのことが気に入ったようだ。

「何言ってんだい! あんな好色一代男の側なんざ、教育上よくないだろ!」
「好色一代男って…」
 ボケなのか天然なのか、真顔でとんでもない説教をする蘭に、返す言葉もなくうなだれる世之介…もとい、クリン。

「これはまだ、極秘の話なんだけどね」
 表情を改める蘭。

「日本は、近々開国するよ」
「本当ですの、蘭?」
 思いもかけない言葉に、ざわめき立つ面々。

「あぁ。江戸城中に潜入してる草(忍び)どもから、直接聞いた話さ。開国した暁にゃ、異国の文化を大量に取り入れてくことになるって」

「んまっ! そしたら凛も、日本でメイドの仕事ができるようになるかも知れないわね♪」
「意外と大ウケして、巨大産業になったりして…」
 何気に先見の明があるクリン。

「とにかく、これで永遠のお別れにはならなくてよかったですわ。またいつか…」

「なに言ってんのよ」
 鋭く遮るネア。真っ直ぐに凛を見つめる瞳に、彼女の偽りのない心が溢れ出す。

「『いつか』なんて日は来ない。自分が決めることよ。あたしは絶対また…あんたたちと再会するからね!」
「ネアさん…!」

 

 少しずつ、陸地が遠くなっていく。爽やかな海風に黒髪をなびかせながら、3人は、この国で過ごした数々の思い出を胸の中で噛み締めていた。

 装束の袖で涙をぬぐい、力強く笑む蓮。
(またお会いしましょう、クリンさま。その時は男の子として、ほんとうの自分をお見せできるように…)

 

 生きる道は別れようとも、心は決して離れない。
 共に過ごした時間は、たった一度の『人生』という物語に刻まれ、永遠に生きつづけていく。

 友よ、どうか幸せに――。


 船の消え去った水平線を見つめるネアの背中に、クリンとサムソンが声をかける。

「もしかして、寂しいんですか?」
「だ、誰がっ!」
「んもぉ、素直じゃないんだから♪ 強気なふりしても、やっぱり女のコねぇ~」

 言いたい放題のふたりに、怒りの形相で振り返るネア。すっかり100tハンマーと化している〈キステラ〉を、力任せに振り上げる。

 しまったと首を引っ込めるが…いつまで経っても衝撃は訪れない。恐る恐るまぶたを上げると、ネアは杖を下ろし、ぷいっとそっぽを向いた。

「あんたたちこそ、相当寂しいんじゃない? あたしが失踪してる間、凛とずいぶん仲良くしてたみたいだし…。どーせなら、あたしがいなくなればとか思ってたりして」

 腰に手をあて頬を膨らませているネアに…なぜかこらえ切れず、思いきり吹き出すサムソンとクリン。

「なによっ!? バカにしてんの?」
 怒り心頭とばかり叫ぶネア。ふたりは腹筋を押さえ涙をぬぐっている。

「ま、あの夜は一刻を争う事態だったし…」
「そういえば、まだ言ってなかったわよね」

 そして、ネアの背後に歩み寄り、両側から彼女の頭にそっと手のひらを乗せると。声を合わせて言った。

「おかえりなさい」
「………た、ただいま…」

 うつむいたままのネアの表情は見えないが、その頬は彼女の真紅の髪に引けをとらないほど、熱く染まっていた。

「さあ、次の依頼は何かしらね?」

 大きな事件を乗り越え、またひとつ結束を増した『始末屋』たちをいざなうかのように――。

 新たなる未来を告げる一陣の風が、大空を吹き抜けていった。

― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷・完 ―

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