恋は爆裂パンクラッシュ!〈旅立ちのゴング〉

恋は爆裂パンクラッシュ!

 

〈旅立ちのゴング それぞれの花道〉(最終話)

 送 信 者:JIN
 タイトル:優勝したぜ!

 押忍! ジンだ。菜々花の応援のおかげで、オレはトーナメントに優勝したぜ。本当にありがとう!
 今夜オレは、ヒオウの手配した密航船に乗って国を離れることにした。もちろんオヤジには内緒でだ。
 世界最強の男になるため、武者修行を兼ねて各国を旅する。最初の行き先は、烈の国・アルシオンにするつもりだ!
 そして、いつか必ず、菜々花に会いに日本に行くよ。だから…その日まで元気な菜々花でいてくれ。
 旅の途中だが、できるだけメールするぜ!
 じゃあ、またな!


 波乱に満ちた十二月が終わりを告げて、新しい年が明けた。
 忘年会ラッシュにつづく新年会ラッシュで、お店はしっちゃかめっちゃかの大忙し。社員もパートさんもアルバイトさんも、総出でホールを駆けまわってる。

 そんな喧騒の合間を縫って、『まつかぜ』では、社員全員の、本部の重役(エリアマネージャー)さんたちとの個人面接会が行われたんだ。今年一年間、どんな心構えで仕事に臨んでいきたいか、っていう意識調査みたいなもの。

 ま、私みたいな新人には、そーゆー難しい会社のシステムとかって詳しくはわかんないんだけどね。

 だけど私には、ひとつの大きな夢ができた。まだとてもあいまいで遠すぎるものかも知れないけれど、いつかは絶対叶える夢。

 なってみせるから。

 ――私は、世界最強のラーメン職人に!

 

 ジンからは、あれからも毎日のようにメールが届く。
 私は相変わらず、与えられた四つの選択肢の中からひとつの答えを選んで返事を返す。

 何も変わったことなんてない、今までと同じ日常を繰り返していくだけだ。

 あの十日間は、もしかしたら夢だったのかな――。そんなふうに思う日も時々ある。

 だけど。

 軽やかな仕草で麺網を振るう夏美さんやマサキの隣で、まだぎこちないながらもチャーハンの鉄鍋をやっとこさ振るってる瞬間。

 近所の雑貨屋さんで買った巨大むにゅむにゅビーズクッションを相手に、あの日ジンが強盗相手に披露してくれた必殺チョークスリーパーなんかをふざけてかましてる瞬間。

 心の中に、鮮やかに蘇ってくる。

 ジンの声。
 ジンの笑顔。

 私の中で永遠に輝きつづける、虹のカケラたちがあるから。

 ――奇跡のカケラを胸に秘め、私は今日も生きていく。

 その先にある、果てなく大きな夢こそが、同じく世界最強になったジンに捧げられる、唯一の花束になると思うから!


「お願いします、ねぎみそ二つ、とんこつ一つ、替え玉一つ入ります」
「はいっ!」

 ホールから、新たなるオーダーを告げる声が響き渡る。いつもどおりの日常が、今日もまた繰り返されていく。

 何のへんてつもない、私の『現実』。
 だけどその現実の中に、きらきらと光る宝物が今なら見える。

「おう、桐原、ギョーザ上がるか?」
「もうちょいです、轟さん!」

「菜々花っ、仕込みのニンニク生姜すり終わったから、ボウルに出しとくぜ!」
「はーいっ! …あっ、ギョーザ上がります!」

 バックヤードへの入口の向こう側で、店長と夏美さんが、マサキと私には聞こえないような小さな声で話してる。

「…知らない間に、ずいぶんとたくましくなったじゃないか」
「ほんと。ふたりとも、麺網とレードル握ってるときがいちばん生き生きしてるみたい」

「まぁ、本当の試練はこれからだがな」
「乗り越えていけるわよ。誰よりも強い闘志を持ったあの子たちなら…」

 

 びゅうっ。
 風の流れ込む音が聞こえる。

 お店の入口へとつづく風除室のドアが開いて、お客様がご来店する。

 社員、パートさん、アルバイトさん、全員の表情が一気に引き締まる。

 そんな心地よい緊張感に心を漂わせながら――

 私は今日も、めいっぱいの笑顔で言ったんだ。

「いらっしゃいませこんにちは、『まつかぜ』安中店へようこそ!」

〈END〉

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