ワンダリンク・ランブル〈Chapter 1〉

ワンダリンク・ランブル

 

〈Chapter 1:ウサギの穴は不思議のはじまり〉

 あなたもとうにお気づきのはず。
 時を超え、空間を超え、運命さえをも超えた場所にある、もうひとつの並行世界の存在に。

 常識もまかり通らぬ異世界で、この瞬間も、胸躍る数多の冒険が繰り広げられていることに。

 そして、ふたつの世界同士が偶然にも交わり合う場所――世界と世界の交差点。
 それが〈ワンダリンク〉と呼ばれる、不可思議な異空間なのだという。

 今日もまた運命のいたずらにより、迷える少女が〈ワンダリンク〉へ繋がる扉を開け放った――。


 乾いた風とともに、むせ返るような砂埃が舞い上がる。
 凛は目を閉じ、捲れ上がるスカートを両手で押さえた。空気が澄むのを待ちまぶたを上げる。

「ふぇぇ~~ん! 服も髪も砂だらけですわ!」

 水色のワンピースとカチューシャに、白いレースのエプロン姿。腰まである可憐な黒髪も、今は残念なほどに乱れてしまっている。

「どうしてこんなことになったのかしら…」
 朦朧とする頭で記憶をたどった。

 奇妙な『始末屋』ネア、クリン、サムソンの協力のもと、生き別れの弟・蓮と再会し、決別していた双子の姉・蘭と和解をしたのが3日前のこと。

 国王のもとへ出頭し、日本への強制送還を命じられたが。
 ネアが国王に凄みを利かせ、船の出港まで1週間の猶予を与えられた。

 どうせなら思い出作りに皆で遠出でも! と、バー『シュロス』にてこれから落ち合う予定だったのだが…。

 気づけば、荒れ果てた街の片隅でひとり立ち尽くしている。

「迷子になった…はずはないですわよね」
 王都のど真ん中に、こんな閑散とした場所があるはずがない。目印を探し道端に掲げられた立て札を見上げる。

 この罪人を捕らえた者、望みのままの報酬を与える。DEAD OR ALIVE

 文面の横にあるのは見慣れた人物の人相書き。

「ね…ネアさんっ!?」
 懸賞金付きの手配書…WANTED!というやつだ。

(今度は何をやらかしたのかしら…)
 先日ネアの召喚した魔物に丸呑みにされかけた恐怖が甦り、身震いする凛。

 とにかく誰かに道を尋ねなければ。
 見れば、向かいの通りを、頭にウサギの耳のような飾りを着けた幼女がちょこまかと駆けていく。

「蓮? 蓮じゃありませんの」
「ほぁ?」
 足を止め振り返る幼女。いや、凛の弟・蓮だ。

 歳に似合わぬ艶なる顔立ちと、肩の辺りで切り揃えられた黒髪。うさみみの横には、凛の造った髪飾り型エナジー制御装置がくくりつけられている。

「会えてよかったですわ! こんな見知らぬ場所で心細くて…」
 しかし蓮は腕をすり抜け、いぶかしげな顔で凛を見上げた。

「どなたですか、あなた」
「はい?」
「僕は、『レン』なんて名前じゃないのです! ちっちゃくて可愛い、白ウサギさんなのですよ♪」

 右手を胸元に当て、愛らしく会釈する。白のブラウスに黒のベストと珍しくズボン姿、首には赤い蝶ネクタイ。

「あぁ、忙しい、忙しい! 時間に遅れそうなのです」
 ポケットから出した『たま○っち』を覗き込む。懐中時計の代わりのようだ。

「うげ…タイムアウトなのです」
「うげって…」

「こーなったら奥の手なのですよ!」
 あくどい笑み。髪の制御装置に手をかけると、なんとおもむろにそれを引きちぎった――。

「めたもるふぉーぜぇぇ――!!!」
「えぇぇぇぇぇぇ!!??」

 解放された蓮の全身から、熱いエナジーが放出される。直視できないほどの光の中、小さな身体が奇跡のような成長を遂げ、大人の男性の体躯へと変化した。

 以前とは違い服も大きくなっている(うさみみ健在)。

「帽子屋さんのお家の真上ですか…。仕方ありません、遅れて女王様に殺されるよりマシなのです」
 パニック状態の凛を置き去りに、蓮は左手を胸の前にかざすと、真下に向けて鋭く振り下ろした。

「ショートカットなのです!」

 爆音とともに地面が円形に陥没する。その下に現れたのは、どこまでつづくとも知れぬ底なしの縦穴。

 凛がバランスを崩し、瓦礫とともに吸い込まれる。視界の端でいつの間にかもとの幼女の姿に戻った蓮が、ぴょいっと穴に飛び込んだ。

「お先なのですよー」
 壁伝いに走り、白いうさみみがあっという間に闇の底へと消えていく。

「こ、これからどうなるんですの――!?」

 嘆くような凛の叫びが穴の中にむなしくこだました。

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