ワンダリンク・ランブル
〈Chapter 4:ハートの女王の正体は〉
「ほぁぁ~~! ここから出してくださいなのですっ!」
格子にしがみつき滝のような涙を流している蓮。ここが現代の日本であれば、幼児監禁容疑で即連行である。
「なぜこんなことに…」
「やっぱりあんた、このうさみみの連れか」
不敵に笑むベルカ。
「蓮はわたくしの弟ですわ」
「…って、弟!? 妹じゃなくて!?」
鳥○明のマンガのように、アインの目玉がびょいんっと飛び出す。尋常ではない動揺ぶり。
事を明かせば、蓮を捕まえたとき、
『くすん…。見逃してほしいのです、お兄さん…(上目遣い)』
と懇願され、危うく錠を開けかけたのだ。いくら魔性の七歳児とはいえ、男相手に心を動かされるとは。
「くっそぉ~、一生の不覚!!」
「ま、アホはほっといてやな」
軽くスルーし話を進める。
「ウチらは、うさみみの持ってたこの紙切れに用があるんや」
取り出した紙片に印刷されているのは、凛が穴に落ちる直前に見た人相書きだ。
「ネアさん!」
深紅の髪の女魔法使いネア。凛の想い人であり、『始末屋』のまとめ役でもある。
その強大な魔力とセール会場での暴れっぷりは、彼女たちの住むシュライヴガルド王国では伝説になりつつあるとかないとか。
「せや。あんたら姉弟、賞金首の知り合いらしいからな」
「たしかにそうですけど…」
口ごもるが、意を決し顔を上げる。
「突拍子もないことを言ってすみません。じつはわたくし、この世界の人間ではありませんの!」
それから凛は、これまでの経緯をふたりに説明した。
うさみみを着けた弟を追い謎の大穴へ落ちたこと。穴の中で会った、知人のマスターによく似た帽子屋から、ここが〈ワンダリンク〉と呼ばれる異世界だと告げられたこと。
そして、蓮もマスターも、凛が赤の他人であるような態度をとっていたことも。
聞き入っていたふたりだが、大きな息とともにベルカがぼやく。
「――なんや、あんたもウチらと同じ境遇か」
「えっ?」
頷くアイン。
「じつはオレたちも、凛さんの言う『穴』と同じ場所を通ってきたんだ。ネアって子の足取りを追ううちに、ふとしたはずみで時空の狭間へ迷い込んだらしい…。オレたちにとっても、ここは見知らぬ異世界なんだ」
「早いとこネアを捕まえて、脱出する方法を聞き出そう思とったんや」
衝撃の事実。この世界の住人と思われていたふたりもまた、数奇な運命に導かれ〈ワンダリンク〉の扉を叩いた異世界人だったのだ。
心を許せる相手にめぐり合い、胸をなでおろしかけた凛の耳に、蓮の声が飛び込む。
「あなたたち、無礼なのですよっ! さっきから女王様のことを呼び捨てにして」
「女王様ぁ?」
と、ベルカ。
「そうなのです。ネア様は、ここ『ハートの国』の女王様。そして僕はハートの兵隊の一員なのです」
自慢げにふんぞり返る。だが凛は、その言葉の中の重要なキーワードを聞き逃さなかった。
「ハートの兵隊!?」
帽子屋マスターが言っていなかったか。『ハートのカードを集め、兵隊たちを解放し女王を救ってほしい』と――。
「蓮…白ウサギさん、カードをお持ちでは?」
胸ポケットから一片のカードを取り出す。トランプのハートの2だ。
「はいっ、これが証明書なのです。兵隊たちは全員カードを持っているのですよ」
格子越しに手を伸ばし、凛がカードに触れた瞬間――。
激しい火花が散り、カードが燃え立つような紅蓮の炎に包まれた。
「なっ、なんですか!?」
「おそらくネアさんのかけた魔法ですわ」
炎系の魔法を得意とするネア、その威力は身をもって知っている。
と、燃えさかる炎に共鳴するように、凛の纏う白いフリルのエプロンのポケットが同じ紅蓮の光を発し始める。
手を入れてみれば、いつの間に入り込んだのか蓮のものと同じサイズのカードが一片。描かれているのは。
「ハートの3…?」
「凛っ、こっちもや!」
振り返れば、腰のポーチから同じように燃え上がる2枚のカードを取り出し掲げているベルカとアインの姿。
「ハートの4、それにハートの5だ!」
凛の鼓動に合わせ、炎が激しさを増した。これから彼らを待ち受ける、奇妙で過酷な運命を暗示するかのように――。
徐々に炎が収まり、こときれたように蓮が地面に崩れ落ちた。
錠を開け駆け寄る3人。そっと抱き起こした凛の腕の中で。
「凛、ねえさま…?」
夢から覚めたように幼い瞳でつぶやく。
「ここは…。僕はいったい、何をしていたのですか?」
「蓮…!」
運命の歯車は回り始めた。
安心したのだろう、子どものように泣きじゃくる凛の姿に、背後でそっと温かな笑みを交わし合うベルカとアインだった。
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