ワンダリンク・ランブル
〈Chapter 3:ふたりのモンスターハンター〉
「また、えらい派手な登場のし方やな!」
逆光で顔は見えないが、少女の屈託のない性格が伝わる。方言なのか独特のイントネーションのある発音が印象的だ。
差し伸べられた手を呆然と眺めていた凛だが、ふと我に帰ると。
「さては、あなたもおかしな帽子屋さんですのね!? これ以上わたくしを混乱させないでくださいな!」
「おかしいのはあんたや!」
炸裂するチョップ。その破壊力はネアの〈キステラ〉100tハンマーも真っ青だ。脳天をさすり見上げれば、少女の姿が今度ははっきりと見えた。
歳は18ほどか、ショートカットの髪は流星を思わせる白銀。使い込まれた簡易型の甲冑を纏っている。
巨大な剣を背負っているところをみると女戦士、中性的な顔立ちは同性からも人気がありそうだ。
「あ、あの…ここは?」
「丘の上の酒場やで。ウチらも初めて来た街やから、詳しくはわからんけどな」
「丘の上…!?」
きょろきょろと見渡せば、たしかにここは地上、しかもかなり繁盛した酒場だったらしい(過去形)。凛が落下してきた衝撃で、屋根もテーブルも皿の上の骨付き肉も、木っ端微塵に吹き飛んでいる。
地下へ落ちたはずが地上に着地するとは、やはり常識の通じない世界。
少女は改めて右手を差し出し、凛の身体を引き起こした。
「ウチの名は、ベルカ。職業はハンターや。雇われモンスター退治屋ってヤツやな」
「まあっ、なんだか『始末屋』と似ていますわね」
親近感を覚えキラキラと目を輝かせる。
「はじめまして、ベルカさん。わたくし、凛と申します。職業はメイドですけれど、今は訳あって『始末屋』…何でも請負い屋の一員で、でもじつはくノ一で、趣味はメカの開発です♪」
「一言で言えば、変わりもんやな」
実もふたもない。
「…ま、とりあえず…」
神妙な顔になるベルカ。きょとんとする凛の背後から、突如凄まじい殺気が押し寄せた。
振り返れば、顔に青筋を立てたガタイのいいふたりの男たちが、両手の指をボキボキ鳴らしながらこちらを見下ろしている。顔つきがそっくりなところをみると双子のようだが…。
さらにその背後で、涙目でブチ切れ寸前になっている店のオーナー。
「あんたら、よくもうちの店をめちゃくちゃに…。トウィードルディー、トウィードルダム! やっちまいな!」
引きつった笑顔で後ずさる凛。その首根っこをベルカが掴むと、アプトノス(彼女たちの国で最も逃げ足の速いモンスター)も真っ青のクラウチングスタートで駆け出した。
「逃げるが勝ちや!」
「あゎゎゎ…」
宙吊りであちこち引きずり回され、完全にのびきっている凛。踏んだり蹴ったりとはこのことだ。
なにはともあれ、無事ディー&ダムの用心棒兄弟の追尾を振り切った、鋼鉄の美少女ハンター・ベルカであった。
街外れの木陰で息を整えるふたり。
「――っ! 何者ですの!?」
樹上に感じた気配に、凛がガーターベルトに忍ばせていた小型の銃を構える。と、風のように軽やかに地面に降り立つ人影。
それはベルカにとってハンター仲間であり相棒である、見慣れた青年の姿だった。
「ベルカ! まったく、探したぜ。戻ってみたら店ごと跡形もなく消えちまってるんだから…」
歳は20代半ば、肩の辺りまで伸ばした銀髪に軽装型の甲冑姿、武器とみえる巨大なハンマーを背負っている。
切れ長の目に、すっと通った鼻筋。女性なら誰もが振り返るような美青年だ。
凛が降ってくる直前まで、彼らは酒場でともに食事をとっていたらしい。
「ん? こちらの方は……」
銃を降ろしきょとんとしている凛に気づく。
と、青年は地面に片膝を着き、凛の手を取り極上の上目遣いで見上げた。背後には真っ赤なバラの花。
「可憐なメイドのお嬢さん…。オレは貴女のことを、100万年と20年前から愛してた!」
「んなわけあるかい! しかもネタ古っ!」
飛び蹴りを喰らい彼方へと吹っ飛んでいく。彼にとって初対面の女性を口説くのは礼儀のひとつだ。
「で、捕まえたんか? アイン」
ふんぞり返るベルカに、アインと呼ばれた青年が樹にめり込んだまま指差す。
その先を見て凛は息を呑んだ。
「蓮!?」
そこには、巨大な鳥かごに閉じ込められジタバタと暴れている、うさみみの弟の姿があったのだ。
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