ワンダリンク・ランブル〈Chapter 14〉

ワンダリンク・ランブル

 

〈Chapter 14:嵐の中のウェディング〉

「なに考えとんのや、あんた」

 球状の結界の中、あきれたように凄むベルカ。
 外では嵐のような突風が吹き荒れ、もぎ取られた客席の椅子が豪快に宙を飛び交っている。

「はよどーにかせんと、全員飲み込まれるで!?」
「方法ならある。オメーらにもちゃんと手伝ってもらうさ」
 結界を支えながら答える浅葱。さらに口を開きかけるベルカをアインがさえぎった。

「さっき、ふたりは身体を共有する存在だって言ったよな」
 ずっと引っかかっていた疑問。

「デリラさんの話じゃ、彼女の身体はすでにこの世のものではないそうだな。つまり、お前の身体に憑依することで、魂のみが生きつづけているということか」
「…ああ」

 元の世界にいた頃なら、冗談と受け流していただろう。しかし浅葱の操る膨大な聖なる力を目の当たりにすれば、それも可能かと思えてくる。

「だがそれも、永遠じゃねぇ。この15年、いつどっちの魂が追い出されて天に召されてもおかしくねぇ状態だった」
 ギリ、と奥歯を噛み締める。経緯を語ろうとはしないが、それほどのリスクを負ってまで刹那の共存を選んだとは――。

「だからこそ今、叶えてやりたかったんだ。あいつが憧れて、結局着られなかったウェディングドレスを、最後に着せてやりてぇって…」
「最後?」

 不穏な単語にベルカが反応するのと、鏡の向こうに人影が見えたのがほぼ同時だった。

 全員が振り返り――言葉をなくす。

 燃える夕焼け色の髪を高く括り、ティアラを冠した歌姫。
 その身には、タイトな純白のドレス。
 胸元と裾に小ぶりのレースのみが付けられたシンプルなデザインが、そこにいるだけで華やかさを放つ彼女の魅力をことさらに引き出している。

 唇が微かに動いた。全員に読み取れたその言葉は、

『あ り が と う』

 長いまつげの下で、大粒の宝石をたたえた瞳が、溶けるように細められる――。

「!!」
 爆音がとどろき、結界を歪ませた。
 鏡の世界の膨張はすでに限界に達している。

「…頼みてぇことがある」
 背を向けたままつぶやく。

「ベルカ。俺が結界を解いたら、一撃で鏡を叩き割れ」

「なっ…!」
 あまりの台詞に、這い上がる戦慄。

「世界同士が混ざり合う。蓮はデリラのカードを受け取れ。見失うなよ。あとは全員、さっさとこの部屋から脱出しろ」

「冗談やないわ! 鏡が割れたらあいつは消えてまうんやろ!?」
「そうなのですよ! それに浅葱さんだって…」
 食ってかかるふたりに、首だけ回し笑む。

「俺はここに残って、ふたつの世界を調和させる。…どーやら、オメーらとこれ以上旅を続けるのは無理みてーだがな」
「それって…」
 口になど出したくもない、最悪のシナリオが脳裏をよぎった。

「あいつと俺は、ふたりでひとり。生きるも死ぬも一緒だ」

 珍しく饒舌に素直な気持ちを口にするのは、今が別れのときと知っているから。

「オメーらを信頼して言ってんだ。…なかなかの珍道中だったぜ、ウサギコンビ」

 まぶたの裏に、城下の教会で彼と出会ってからの時間が甦った。

 記憶を失いながらも、その正義感から、悪に利用された女王を救うため王宮を目指した浅葱。
 降り注ぐガラスの雨から蓮を守り、気を失ったベルカを背負い――。

 不器用だがどこまでも澄んだ心を持った、掛け替えのない仲間。

 ベルカが潤む目頭を隠すように顔を逸らす。その腕にしがみつき、溢れる涙を拭おうともしない蓮。

 手のひらに集めた力を抑え、結界を緩めかけた――
 そのとき。

「ふざけるな!!」

 大地をも揺さぶるような怒号が、背後から響き渡った。

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