ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―〈Chapter 1〉

ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―

 

〈Chapter 1:ネア、失踪! 百合満開のプロローグ〉

 太陽の光がさんさんと降り注ぐ、のどかな昼下がり。
 シュライヴガルド王国の王都・ウルムの繁華街では、今日も多くの露店が軒を連ね、人々の平和な笑い声が響いている。

 しかし、その一角で――なぜか注目を集めまくっている人物が3人。

「くすん…くすん…。ふぇぇぇぇ~~ん!」

 見れば、年の頃15歳ほどの可憐な黒髪の少女が、ガラス玉のような涙をこぼし号泣している。
 水色のワンピースとカチューシャ、フリル付きの白いエプロンを纏っている姿は、メイドのようだ。

 そしてもう2人、彼女を取り囲み、あたふたと挙動不審になっている者たち。

「どっ、どーしたんですか!!」
「いきなり泣かれても、わけわかんないわよぉぉ!」

 少女と同い年くらいの、若草色の甲冑を身につけたはちみつ色の髪の美少年剣士。
 そして、紫色の僧衣を纏った、30代半ばと見える武闘家まがいの僧侶――。

 彼らこそ、知る人ぞ知るこの物語の主要登場人物、凛、クリン、サムソンの3人である…が。
 傍から見れば、ただの怪しげな集団。人々の視線が痛い。

「で? 何があったってのよ」
 ようやく泣きやんだ凛に、サムソンがたずねる。野太い声に似合わないオカマ言葉は相変わらずだ。

「そ、それが…くすん。今日、とある用事で警察の駐在所へ行ってきたのですけれど…。帰りに教会に立ち寄りましたら、祭壇にこんなものが」
 凛の手にする紙切れを覗き込むと、そこにはたった一言。

『探さないでください』

「ネアさんの字ですね」
 と、クリン。清々しいほどにありがちな、失踪者の置き手紙だ。

「ネアさん、悩み事がおありなら、わたくしに相談してくださればよろしいのにっ! 水臭いですわよ~!」
 ハンカチの端をきゅーっと噛み締め、またも滝のような涙を流す凛。

 しかし。
「ネアの気持ち、わかるわよ…」
「んー、あれだけ酷い目に遭えばね…」
 同情するように、空ろな目でどこか遠くを見つめるサムソンとクリン…。

 ふたりの脳裏に甦るのは、まだ記憶に新しい、教会での背徳の10日間(!?)である。


 ドラゴンを倒し、日常生活に戻ったネアたちだったが、ひとつだけ未解決の問題があった。

 例の、呪いのメイド服。
 戦闘服としては申し分ないが、自由に着脱できないのが不便だ。

 ネアは魔法で自らの身体を清めていたが、いつまでもキャラに合わない服を着つづけるのにも限界がある。

「ほんとに、凛と1000回キスすれば脱げるんでしょうね?」
 いぶかしげな目つきで腕組みする、黒×白メイド服姿の女魔法使い、ネア。深紅の髪に、勝気げな顔立ちが映えている。

 ここは、サムソンの所属する教会の礼拝堂。夕日に照らされた聖者の像が、おごそかに4人を見下ろしている。

「わたくし嘘は申しませんわ! ただ…」
 目をそらし、ポッと頬を染める凛。
「単にすればよいのではなく、呪いを打ち破るほどの、熱烈なキスでなければなりませんの♪」
「………」

 すでに尋常ではない顔色のネア。某西○ドームの外野自由席の応援団もびっくりの青っぷりだ。

「やるしかないんじゃないですか、ネアさん?」
「1000回は、さすがにキツいわよぉ? 1日100回を10日間にしたら?」

 涙目でうるさい外野を睨みつけたネアの表情が、ぴきっと凍りついた。

「っていうか、なんであんたはウェディングドレス姿なのよ!」

 見れば、今にも背中が破れそうなピッチピチのドレスを着て、リボン付きのブーケを抱えた、コスプレオカマッチョ…サムソンの姿が(スネ毛処理前)。

 悩ましげに身体をくねらせると。
「あんっ。純白のドレスを着て、愛する人とヴァージンロードを歩くのは、乙女の夢なのよぉ」

「そのまま永遠に夢を見つづけさせてやってもいーのよ…?」
 両手の指をボキボキと鳴らしながら、悪魔のような形相で凄むネアに、言葉も出ず震え上がるサムソン。明らかにとばっちりだ。

「ネアさん…」
「んっ…」
 やわらかな唇が触れ合い、お菓子のような甘い香りがお互いの鼻腔をくすぐる。

「愛してますわ…」
「ぁ…ふ」

(中略)

「一日100回ですから、あと72回…。うふふっ♪」


「あれは拷問だったよね(僕らにとっても)」
 額を押さえながら、ため息をつくクリン。

 男ふたりとしては、いたたまれずに場を外そうとも考えたが。
 あのまま凛とネアをふたりきりにしたときの危険性に気づき、なんとか理性で踏みとどまったのだった。

「今はそっとしときましょ。そのうち帰ってくるわよ」

「『そのうち』では困りますわ!」
 サムソンの言葉に、何かを思い出したように叫ぶ凛。

 腕にかけていたバスケットから、一封の書状を取り出すと、ふたりに差し出した。

「実はもう、国王様から次の仕事の依頼をいただいておりますの…」

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