ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―〈Chapter 4〉

ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―

 

〈Chapter 4:魔性の幼女☆ それぞれの思惑〉

「それにしても、凛が三姉妹だったとはね」

 マスターに報告をするため、バー『シュロス』へと戻ってきた一行。酔っ払いたちの暴れる喧騒の中、作戦会議に入る。

「蓮さんとは、生き別れになってたんですね。心配だったでしょう」
 凛はドラゴンの呪いから解放されて以来、よく警察の駐在所へ通っていた。蓮の行方を探すため、情報を集めていたのだろう。

「まぁ、蓮ならひとりでも、たくましく生きているだろうとは思ってましたけど…」
 気づかうクリンの予想に反し、苦笑する凛。

 見れば、テーブル席ですでに出来上がっているひとりの若者の膝の上に、蓮がちょこんと座り込み、足をぶらぶらさせている。

「ねぇ、お兄さん…お願いがあるのです。聞いてもらえますか?」
 潤んだ瞳で見上げる。

「僕、このお店のお向かいの宝石屋さんに売ってる、アレキサンドライトの指輪が気に入っちゃったのです♪ どうしても、欲しいのですよ~~」

「よし、お兄さんが今すぐ買ってきてやるぞ!」
 鼻息も荒く立ち上がろうとする若者を上目遣いで見上げ、ほんのりと頬を染める蓮。

「本当ですか? 蓮、嬉しいのです! 大好きなのです、お兄さん…」

「た、確かにたくましいですね…」
 さすがのクリンも笑顔が引きつっている。萌えの流行りの最先端を読んでいるというか、末恐ろしい7歳児だ。

「蘭も申してました通り…わたくしたちは、江戸の街で義賊と呼ばれる生業を営む一党、『花房組』の、直系の三姉妹なのですわ」
 語り始める凛。

「忍びの家に生まれた者は、生涯その一族から逃れられない。闇に生き、闇に消える、それが宿命」
 ぎゅっと拳を握り締める。

「でも、わたくしは…どうしてもメイドになりたかったのです! 素敵な旦那さまにお仕えし、屋敷を磨き、食事を作り…それがわたくしの天命だと」
「それにしては趣味がメカって…おぶっ!?」
 話の腰を折ろうとするクリンの顔面に、ネアの容赦ない裏拳が飛ぶ。

「けれど、蘭は許してはくれなかった。だから家を出たのです。ただひとり、わたくしの味方をしてくれた、蓮とともに」

「だけど、頭領は蘭が継いでるんでしょ。なんで追われる必要があるの?」
「抜け忍には、死あるのみ。それが掟なのですわ」

「ありえない! そんな理由で殺し合うなんて」
 不機嫌そうに頬を膨らますネア。

「果たして蘭さんが、考え直してくれるのか…」
 クリンがつぶやいたとき、店のドアベルが鳴った。

「はぁ~い、お・ま・た・せ♪」

 振り向いた途端、含んだばかりのテキーラを豪快に吹き出すネア。
 現れたのは、今にもボタンが弾け飛びそうな深紅のチャイナドレスに身を包み、悩殺ポーズをとっているサムソンである。

「なっ、何よその格好!」
「あん、忍者に対抗できるのは、セクシー娘娘(にゃんにゃん)しかいないでしょ♪」

 腰まで入ったスリットが際どすぎる。周りの酔っ払いたちも一気に酔いが冷め、「見える! 見えるって!」と叫びながら逃げ惑っている。

「見つかったわよ、蘭のねじろ」

 目を見開く凛に、不敵に笑むネアとクリン。サムソンが密かに教会に戻り、情報を集めていたのだ。

「聞いて驚かないでよ。あのドラゴンの屋敷なの」

 ドラゴン、つまり凛がかつて仕えていた主が、住んでいた屋敷。今は廃墟になっていたはず。
 蘭はそこを居城にし、お付きの数人の黒子たち(必須要員)とともに潜んでいるという。

「――じゃ、行きますか」
 愉しげに目を細めるクリン。

「行くって、どこへですの?」

「決まってるじゃない、蘭のところよぉ。あんた、今夜一晩、眠れない夜を過ごす気?」
「………」

 少し考えたあと、急に頬を染める凛。
「ネアさんとふたりっきりでしたら、眠れぬ夜も嬉しいですわ♪」

「!!!」
 足元から懐かしい寒気が這い上がり、石のように固まっているネア。
 その隣では。
「調子出てきたみたいですね、凛さん。よかった、よかった」
 至福の表情で頷いている、S全開のクリンの姿があった。

 一方こちらでも。
 酔っ払いにまんまと貢がせた指輪を弄びながら、じぃっとサムソンを見つめる蓮。

「んふっ。お嬢ちゃん、あたしの色気に参っちゃった?」

「僕、美しくないものには興味ないのですよ」
「んまっ!!」
 マンガの一シーンのように、ふたりの背後に雷が落ち、顔が劇画調に歪んだ。

「ナマイキ言うと、あんたが秘密にしてることバラしちゃうわよ! あたしと会ったのが運の尽き、誤魔化そうったってそうはいかないんだから」

「僕は真実を言ったまでなのです」
「なんですって! キィーッ、悔しい!!」

 ハンカチの端を噛み締めながら悔しがっているサムソン。なにやら意味深な脅し文句だったような気もするが…。

 思いもよらず、複雑な人間関係が形成されつつあるようだった。

 ――決戦は、これから。
 夜はまだ始まったばかりだ。

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