ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―
〈Chapter 5:潜入! 恐怖のカラクリ屋敷〉
閑静な住宅街の一角で、ひときわ目を引く巨大な建物。
月明かりの中、おどろおどろしく浮かび上がるそれは、まるでゴーストハウスのよう。
その窓辺から、妖艶な笑みを浮かべながら、眼下を眺める年の頃15、6歳の娘がひとり――。
「来たようだねぇ…」
今やこの屋敷の主となった、蘭。
しかし、その笑みの奥に音もなく燃え上がる、深い悲しみの炎には、彼女自身もまだ気づいてはいない。
目線の先、屋敷の門前に立つのは、5人の若き『始末屋』たち。
メカ担当の清純派メイド、凛。
魔性のくノ一、蓮(7歳)。
情熱の女魔法使い、ネア。
クールな腹黒美少年剣士、クリン。
麗しのチャイナガール…もとい、コスプレオカマッチョ僧侶、サムソン――。
(BGM:必殺仕○人2009)
決戦の火蓋が、切って落とされようとしていた。
「間取りはわかってるわよね、凛」
念を押すネア。偶然にも、かつて凛が仕えていた屋敷跡だとは、なんたる好都合だろう。
しかし、凛は表情を曇らせる。
「はい…。ですが、あの蘭が、そのような初歩的なミスをしますでしょうか」
「罠だってことですか?」
「ええ、おそらく」
眉根を寄せるクリン。門やドアの周囲に、鳴子が仕掛けてあることには気づいていたが。
「ま、行くしかないんじゃない?」
サムソンの言葉に頷く一行。ドアノブに手をかけると、凛が重い扉を開け放った。
と。目の前に飛び込んできた風景は。
「ほぁぁ~っ!?」
目を真ん丸くして叫ぶ蓮。
それもそのはず。
外観の洋館の印象とは打って変わり、檜の板張りの床に、頭がつかえそうなほど低い天井。
シルクの壁紙は高級な和紙の襖に張り直され、ドアは木製の障子。主の肖像画の代わりには、達筆な筆文字で書かれた巨大な掛け軸が飾られている。
一瞬にして異国へと迷い込んだ感覚に、めまいを覚える面々。
「すごいのですっ! 日本の、お大名屋敷みたいなのですよ!」
「いつの間に…。おそらく間取りも変えられていますわ」
予感が的中し、凛がきゅっと拳を握り締める。
しかしその隣では。
「その気風(きっぷ)のよさ…気に入ったわ、蘭」
挑むように、ニヤリと目を細めるネア。どうやら強気で派手な性格に、共通点を見出したらしい。
「皆さん、用心なさってください。この屋敷はもしや…」
ハッと何かに勘付いた凛が、口火を切りかけた、その瞬間。
「この南蛮渡来の壷、美しくて高価そうなのです~……んぎゃっ!?」
響き渡る蓮の叫び声。足元の床板がぐるりと回転したかと思うと、その下に漆黒の奈落が口を開けた。
「ほぁぁぁぁ――――っ!!!」
「! 落とし穴ですわっ!」
侵入者を地下の隠し部屋へと落とし、抹殺する仕掛け。最悪の場合、着地点に毒を塗った竹やりが仕込まれていることもある。
クリンが駆け寄り、すんでのところで蓮の腕を掴んだ。
「蓮さんっ! 今引き上げま…… !?」
その瞬間、共に奈落へ吸い込まれそうになり、逆の手でとっさに床にしがみつく。腕にふたり分の体重がかかり、宙吊りの形になる。
「~~~っっっ!」
この状況下でも決して「重い」とは口に出さないあたり、クリンが紳士(?)たる所以である。
事情のわからないネアとサムソンを押しのけ、駆け寄る凛。
「蓮は修行のため、両腕両脚・胴それぞれに、20キロずつの重しをつけて生活しているのですわっ!」
つまりは、+100キロ。
「(やっぱり…)大忍者養成ギプス…?」
「ほぁぁぁぁ…ごめんなさいなのです~~」
凛が必死で伸ばした腕もむなしく、クリンの指がついに床から外れた。断末魔の叫びとともに、ふたりの姿は闇の底へと消えていく。
床板は軸を中心に半回転すると、もとの何事もない床に戻った。
ごくりと喉を鳴らすネア。殺しても死ぬようなふたりではないとわかっているが。今は各々、自分の身を守ることが先決だ。
「思ったとおり。皆さん、ここは、蘭の造ったカラクリ屋敷ですわ」
神妙な形相でつぶやく凛。こうして少しずつ敵の人数を削ぎ、誰一人蘭のもとへなどたどり着かせないという寸法だ。
「ある意味、和製ダンジョンね」
と、ネア。
「蘭は昔から、忍びの修行の休憩時間になると、一心不乱に屋敷の間取り図を引いているような子どもでしたの。いつかは自分の設計で、『花房城』なる居城を建築したいと…」
ネアとサムソンの脳裏を、その隣で同じく一心不乱にメカの設計図を引いている幼い凛の姿がよぎった。
「あんたの一族、まともな人間いないわけ」
もっともなツッコミだが、チャイナドレス姿のオカマにだけは言われたくない。
「そんなに仲良かったのね」
「………」
ふとネアの口からこぼれた言葉に。
「…すべては、遠い昔の話ですわ」
迷いを断ち切るように、蘭の待つ薄暗い廊下の先を見据える凛。
動き出した運命は、もはやとどまることはない。
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