ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―〈Chapter 7〉

ダンジョン・コンツェルト ― 潜入! 恐怖のカラクリ屋敷 ―

 

〈Chapter 7:凛vsネア? 衝撃の再対決〉

「…ようやくお出ましかい?」

 細心の注意を払いカラクリ階段を上りきり、最上階へと進んだ凛とネア。

 広大な部屋の中。豪華な金屏風を背に、数人の着物姿の女中(おそらく黒子の正体)にかしずかれ、優雅に脇息にもたれかかる蘭の姿があった。

 小粋な紺色の振袖に着替え、流れるような黒髪は日本髪へと結い直されている。べっ甲の飾り串に、七宝のかんざしを幾重にも挿した姿は、芸者か花魁(おいらん)のようだ。

「作品宣伝用のCG描くのに、1週間も作者の頭ん中で脳内アイドルと化してちゃあねぇ」
「何の話ですの?」

 首をかしげる凛に、待ちくたびれたようにあくびをする蘭。血を分けた瓜二つの妹姉だが、性格は月と太陽のごとく正反対だ。

「…余計なのが生き残ってるね」
 ちらりを視線を投げる蘭に、不敵に笑みを返すネア。

「お生憎さま。往生際の悪さは、天下一品よ」
 腰に手を当てふんぞり返る、真紅の髪の女魔法使い。セール会場での奮闘ぶりも、ある意味天下一品ではあるが。

「蓮たちをどこへやったのよ! 場合によっちゃ容赦しないから」
「ふん、慌てなくてもすぐ会えるさ。…あの世でね」
「蘭!」
 あまりの言い様に、凛が激しく詰め寄った。

「もうやめてください! これ以上わたくしの仲間を傷つけないで」
「仲間だって? 笑わせんじゃないよ! 一族を裏切ったあんたに、『仲間』を語る資格があるってのかい?」
「……!」

 核心を突かれ、震える脚で後ずさる。その瞳は呆然と見開かれ、焦点が合わない。

「親を捨てて、あたしを捨てて…手に入れた夢は、どんなにか輝いてることだろうねぇ」
「そんなっ…わたくしは…」

 両手で耳を押さえ、力なく畳に崩れ落ちる。この儚い少女が、数時間前に銃を手に蘭へと立ち向かっていった、あの凛だというのか。

「…いい加減にしなさいよ」
 押さえた声音で、ネアが言い放った。鋭く敵を見上げる。

「捨てたって何よ! あんた自身はどうなの? 一度でも、凛の夢をまじめに受け止めてあげたことがあったわけ?」
 そこで区切ると、今度は隣でへたり込んでいる凛に視線を向けた。

「凛、あんたもあんたよ! 家出なんかする前に、どうしてもっと話し合わなかったのよ」
 びっくりして見上げる凛。

「そりゃ、このきかん気の姉じゃ話しても無駄かもしれないけど。それでも、心から叶えたい夢だったら、わかってもらう努力はいくらだってできたはず…」
「――うるさいねぇ! あんたは黙ってな!」

 遮るように、突然大声をあげる蘭。
 その瞳には、今や隠し切れない動揺が浮かんでいる。これ以上聞きたくないというように首を振る。

「ネア、あんたに何がわかるってんだい。そんなふうに、当たり前のように凛の傍にいて、叱って抱きしめてやれる…。あんたに、あたしの気持ちなんて…!」

 その言葉は、広い邸内に雷鳴のように響き渡った。

「蘭…?」
「…あぁ、言ってやるさ」
 戸惑う凛の声に、ぎゅっと瞳を閉じる蘭。

「本当は、一族の掟なんざどうだっていいんだ。ただ、あんたに逢いたい一心で、密航船でこの国へやって来てみりゃぁ…あんたはもう、新しい姉貴を見つけてた」
「そんな、蘭…」

 初めて明かされた姉の本音。
 忍びの頭領という立場から、妹の夢を応援してやることもできず、愛情を屈折させてしまった。蘭もまた、被害者だったのだ。

「他の奴のものになるくらいだったら…あんたも、ネアも、いっそ殺してやる!」

 今の蘭は、正気を失った鬼女と同じ。脇息を投げ飛ばし立ち上がると、口の中で怪しげな文言を唱え始めた。

「ネアさんっ、聞いてはいけませんわ!」
 必死でかばう凛。
 その隙を突き、蘭が凛の目前へと飛んだ。唇が触れ合いそうな距離に、瓜二つの可憐な少女たちの顔が近づく。耳元で、短い呪文が囁かれる――。

 ネアが思いきり蘭を突き飛ばした。

「凛! 何なのよ今の…」
 言いかけた途端。額に、硬く冷たい感触が走る。それは、凛の手によって押し付けられた、重い銃口だった。

 とっさに身をかがめた直後、乾いた音が響き、背後の屏風に小さな穴が開く。呆然とするネアの前にいるのは、冷たい目で見下ろす凛の姿。

「…操られてるのね」

 この目には覚えがあった。初めて凛と出逢ったとき、ドラゴンに操られネアとクリンを攻撃してきた、あの目と同じ。
 しかし今は状況が違う。凛は仲間。操られているとはいえ、反撃などできるはずがない。

「ネア。ここであんたがおとなしく殺されりゃぁ、凛の命は救ってやってもいい」
「悪趣味にも程があるわよっ…」
 嘆くような声は、蘭の心には届かない。

 無数の蘭の姿が、凛とネアをぐるりと取り囲んだ。
 世に言う、分身の術。残像を残すほどの高速で移動し、自分が数人いると相手に錯覚させる忍術だ。忍びの頭領ともなれば、その速さは人一倍。

「さあ、血も凍るような宴を見せとくれよ…」
 悪夢のような蘭の声が、幾重にも反響し、ネアの心を縛り付けた。

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