ワンダリンク・ランブル
〈Chapter 7:敵か味方か? 赤vs白の聖職者〉
波乱の一夜が明けた。
宿屋の軒先でアイルー主人に見送られ、清々しい朝日の中を歩きながら凛たちは新たなる作戦を練る。
「残るカードは5枚かな。クイーンのネアさんを除くと、ハートのカードは全部で10枚ですから」
「なんでや? トランプゆうたら13枚ずつやろ」
いぶかしげなベルカに、人差し指を立てにっこり笑むクリン。
「ネアさんは独身ですから、キングとジャックは現在空席なんです」
「たしかに理屈は通っていますわね」
7~10とAの兵隊を仲間にし、ネアの行方を突き止めることが、元の世界へ戻る唯一の方法。マスターとクリンの情報をまとめればそういうことになる。
「ウチ、まどろっこしいのは苦手なんや! 手っ取り早く女王の城に潜り込む方法ないんか?」
「んー、あることはありますけど、教えちゃっていいのかなぁ…」
もったいぶるように指先で髪をいじる。次の瞬間、背後から響く押さえた声。
「……あるならさっさと教えるのです」
凄まじい形相でたたずむ蓮とアイン。すでにストレートパーマをかけ元の髪型に戻っている。
「これ以上まわり道させたら、クリンさまの頭もアフロにしてやるのですよ」
「そうだっ、髪は男の命なんだぞ!? それをあんな…あんな毛玉に…っ!」
さすがに身の危険を感じ、両手を突き出し後ずさるネコ耳剣士。
「ちょ…ちょっとしたジョークじゃないですか。話せばわか…」
「問答無用―――ッッ!!」
全力疾走で逃げまどうクリンを、鎖がまとハンマーを振り回しながらふたりが追いかける。
「なんやあいつら、随分仲良うなったみたいやな」
「そ、そうですかしら…」
素でボケるベルカに、もはや引きつった笑みを浮かべるしかできない凛だった。
数十分後――。
遠く山の中腹にそびえる巨大な白亜の城を見上げ、ベルカがつぶやく。
「あれがネアの…ハートの女王の居城か。また、えらい豪勢やな」
あの後、蓮の鎖がま乱舞でフルボッコにされたクリンが、皆に手渡した紙片に書かれていたのは。
| 【従業員急募】 職種:執事・メイド 君も、大きなお城で働いてみないか!? |
|---|
「ネコ耳のヤツ、あんな求人あるんならさっさと言わんかい! ネズミ一匹入れん鉄壁の要塞かと思たわ」
「ほんとです! あとでもう一度お仕置きなのですっ」
激しく同意する蓮。他に人影が見えないところをみると、ふたりきりで別行動をとっているようだ。
事を明かせば――ベルカが『メイド服を着たくない』と城への潜入を断固拒否したのと、蓮が女王の側近たちに面が割れている恐れがあるため。
城下で聞き込みをし、残りの兵隊たちの情報を集めることになったのだ。
「情報ゆーても、当てなんてあらへんしな…」
「あ、教会へ行ってみませんか? 相談に乗ってもらえるかも」
時計台の十字架を見上げ、ベルカの腕を引っ張る。さすがの凄腕ハンターも無邪気な子どもには敵わない。
「たのもぉー! 誰かおらへんか?」
ドアを蹴破る勢いで礼拝堂へ乱入する。とても物をたずねる態度ではない。
「ふん…新手の道場破りのつもりか」
険しい表情で現れたのは、こちらも聖職者とは思えない口ぶりの僧侶。その顔を見た瞬間、蓮がギョッと目を見開く。
「あ~~っ、コスプレオカマッチョ!」
分厚い経典を小脇に抱えたたずむ男。長身に漆黒の短髪、上品な紫色の僧衣の上からでも見て取れる鍛え抜かれた強靭な肉体。
ネアたち『始末屋』の一員、荒僧侶サムソンだ。
「なんや、知り合いか」
「はい。僕や凛ねえさまの仲間なのです…一応」
あからさまに胡散臭げな視線を送る蓮。
「あなたもこの世界に来て……んぎゃっ!?」
首根っこを掴まれ軽々と持ち上げられる。
「あぁん? 俺のどこがオカマだってんだ、白ウサギのお嬢ちゃん」
「……???」
きょとんと目を見開く。
彼がサムソンなのは疑う余地もない。しかし、妙な違和感。
初めて顔を合わせたとき、蓮が男であると一目で見抜いたはずの彼が、今さら自分を『お嬢ちゃん』などと呼ぶはずがない。いつものオカマ口調も影を潜めている。
「そういえば…あなた、あいつよりずっと若いです」
20歳前後と思える風貌。仮に歳の離れた(真っ当な)弟がいたとすればこんな雰囲気だろう。
「…お前、俺のこと知ってんのか」
不意に男が声音を抑える。
「俺は、この世界の人間じゃねぇ。ほんの数日前に連れてこられたんだ」
「はい。ネアさんにですよね」
途端、男は表情を歪め、熱い想いに突き動かされるように、ギリ、と奥歯を噛み締めた。
「…違う! あの女王は利用されてるだけなんだ。本当の黒幕はなぁ…!」
「――おや、浅葱。お客様ですか?」
祭壇から響く声。
ハッと我に返る男の目線の先に、厳かなステンドグラスの光を受けたたずむ神父の姿が映った。
歳は男とそう変わらないが、対照的な雰囲気を纏う。男が『動』なら、神父は『静』といったところか。
細められたまぶたの奥で、両の瞳が冷たい光を放つ。研ぎ澄まされた刃のように。
「…白(ハク)! てめぇ…」
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