ワンダリンク・ランブル
〈Chapter 9:歌姫は肉食系? 鏡の国へようこそ〉
予期せぬ黒幕の出現に、蓮たちが女王の城へ急行している頃。
執事・メイド公募の面接を口実に、凛とアインはまさにその門前へと到着していた。
広大な居城と、真っ赤なバラの咲き誇る庭園に圧倒されながらも、ネコ耳カリスマ美容師に導かれ足を踏み入れる。
「凛さん。あのクリンってやつ、本当に味方なのか? 案外オレたち、逆に人質にされた可能性も」
耳打ちするアインに、一歩先で耳をそばだてていた当人が肩をすくめた。
「んー。勘が良すぎるのも困りますね、アインさん」
数枚の写真をちらつかせる。そこには、滝のような涙を流す蓮・アインのアフロコンビに囲まれ、至福の笑みを浮かべるクリンの姿。
「このまま日本へ行ってデビューします? グループ名は『矢○美容室』がいいですね」
「誰がだ!? ってかお前いつの間に自撮りしてるんだよ!」
ガチでビビるアインを横目に、S全開でほくそえむクリン。まるでインスタ映えを意識したかのような女子力の高いその写真は、もはやネタが古すぎるのか新しすぎるのかもよくわからない。
出会いの第一印象がまずかったせいで、微妙な人間関係が形成されてしまっているようだった。
「さてと、僕はそろそろネアさんのところへ戻らなきゃ。おふたりとも面接頑張ってくださいね」
にこやかに手を振り、窓からひょいっと庭へ消えていく。まさに猫のような気まぐれさだ。
あっけにとられるふたりの耳に、廊下の奥から歯車の回るような重厚なノイズが飛び込んできた。
見れば、段ボールをふたつ積み重ね手足をつけたような物体が歩いてくる。目と思えるふたつのレンズが凛たちの姿を捉えると。
「オキャクサマ・ニメイ・キヤガリマシタ・ロボ」
「な、なんだぁ?」
突然しゃべり出す段ボール。
手にしたトレイに湯気の立つ紅茶のカップを載せているところをみると、城で働く給仕用ロボットらしい。胸の名札には『ろぼにー』の文字。
「オチャデ・ゴザイマス・ヤガレ・ロボ」
「まあ、可愛いメカ! ありがとうございます、ろぼにーさん♪」
凛がカップを受け取り、香りを楽しむ。
アインも胡散臭げに手を伸ばした、そのとき。
ばっしゃぁぁぁ~~~!
「うわっちぃ~~~!!??」
トルネード投法でカップを投げつけるろぼにー。
「ドジッ娘キノウ・ハツドウ・シマシタ・ロボ」
「お前? どう見ても今、狙って投げつけたよな!?」
「シッパイ・シッパイ・テヘ・ロボ」
無表情な顔が不気味さを増幅させている。こういう位置付けがアインの宿命だ。
「こんな姿じゃ面接には行けないな」
「困りましたわね…、替わりの服をお借りできませんかしら」
見回す凛の視界に、出来過ぎたように『更衣室』と書かれたドアが映った。
「スゴ腕ノ・スタイリストガ・ビフォーアフター・ロボ」
「仕方ない、先に面接を受けていてくれ」
「了解ですわ。後ほどまた合流しましょう」
得体の知れない城で女性をひとりにするなど、偲びがたい。後ろ髪を引かれる思いで振り返ると…。
ろぼにーの隣で、どこからか取り出したガトリングガン(自作)を担ぎ、すでに臨戦態勢の凛。肩にはスペアの銃弾の束をたすき掛けにしている。
「心配なさらないで! もしものときはわたくしが駆けつけますわ」
「あ、あぁ…。ありがとう…」
どこの世界でも、女性は思うほどか弱くはないらしい。殺伐とした気持ちに押し潰されそうになるアインだった。
ドアをノックするが、一向に来ない返事にノブを回す。
薄暗い部屋の中には、クローゼットに掛けられた無数の衣装とおしゃれなトルソーが並んでいた。
「本格的だな」
と、部屋の奥から響いてくる微かな歌声に耳をそばだて聴き入るアイン。
――私の視界を 眩しい照明が奪うでしょう
けれど いつものようには悲しくはならない
だって今夜は 大勢の観客のどこかに
あなたがいるのを 知っているから
しっとりと染み入るアルトの美声。本格的に学んだことがあるのか、技能も声量もずば抜け、人の心を動かす魂を宿している。
だがその声の主に気づくと、アインはハッと息を呑んだ。
部屋の中央にそびえる巨大な楕円形の鏡。「全身鏡」という表現でも足りない、天井まで届くほどの大きさだ。
玉子に手足が生えたような奇妙な絵が刺繍されたクロスの向こう、鏡面が微かなオレンジ色の光を放っている。
「んまっ! いらっしゃい♪」
声は確かにその内側から響いてきた。
ハンターとして数多の旅をしてきたアインも、意思を持つ鏡など見たこともない。無意識に右手が背中のハンマーにかかる。
「あんた、ハートの兵隊のひとりね」
「なぜそれを?」
「…クロス、取ってくれない?」
罠かも知れない、呪いかも知れない。しかし導かれるように腕は鏡に向かい伸びていた。クロスを掴み一気に引く。
舞い上がる埃と、剥がれ落ちる悪趣味な布の向こう。巨大な鏡面の中には――。
切ない夕焼け色の光に包まれたたずむ、ひとりの女の姿があった。
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