ワンダリンク・ランブル〈Chapter 17〉

ワンダリンク・ランブル

 

〈Chapter 17:アリス覚醒! 明かされる願い〉

「まさかラスボスが蘭ねえさまだったなんて~~」
「ふん、バレちゃ仕方ないねぇ」

 平穏を取り戻した部屋の中、慌てる蓮を見上げ、蘭ががしがしと頭をかく。懐から出したカードはハートのA、兵隊たちの最高位だ。

「あたしゃ女王代理。ネアに頼まれて、ハートの国を治めてたのさ」
 この世界での名は『アリスの姉』。乱れた装束を直しながら、凛の手をとり立ち上がる。

「…ネアとの約束、守れなかったねぇ」

「蘭さん、もういいんじゃないですか?」
 静かな声音に全員が振り返れば、満足げにピンとネコ耳を立てているクリンの笑顔とぶつかる。

「ネアさんも、気が済んだんだと思いますよ。たぶん、おふたりがまた傷つけ合う姿なんて、見たくないって気づいたんじゃないかな」

 今の奇妙な現象は、ふたつの世界を融合させた張本人・ネアが起こしたもののようだ。
 だとしたら、これまで彼らを襲ったすべての『不思議』も、彼女の描いた筋書き通りだったといえるのかも知れない。

「凛さん。ネアさんは、すでに元の世界へ戻ってます。この〈ワンダリンク〉も間もなく消滅する。ネアさんが永い眠りから覚めたその瞬間に」

 唐突すぎる展開に、凛が困惑しながら問い返そうとしたとき。

「…凛ちゃん。どうしてネアちゃんがこの世界を創ったか、わかるかい?」

 やわらかな声。そこにはいつの間に現れたのか、凛が最初の縦穴の中で会ったおかしな帽子屋、マスターの姿があった。

 タキシードのポケットから出したカード、ハートの9を渡す。
「わ、わかりませんわ。一体何が目的だったのか…」

「――あんたと、一緒にいたかったからだよ」

「え…?」

 呆然と目を見開く凛に、蘭が今まで見せたことのないほどの優しい笑みを浮かべた。

「ネアの性格じゃ、言えなかったんだろうねぇ。ほんとの妹みたいに慕ってくるあんたを、遠い日本になんか帰したくないって。気持ちを押さえつけて、心の奥底に沈めて…」

 かつて妹弟を失いかけた実の姉だからこそ、わかる感情。こみ上げるものを抑えきれず黙り込む蘭の言葉を、クリンが継ぐ。

「でも、ネアさんの内なる魔力が、封印したはずの気持ちを解放した。そして無意識のうちにふたつの並行世界の軌道を捻じ曲げ、〈ワンダリンク〉を創造していたんです」

「ネアは望んだんやな。大好きなあんたら全員といつまでも平和に暮らせる、夢みたいな世界を…」

 腕組みし、すべてを納得したように頷くベルカ。その隣でアインも満足そうに笑んでいる。
 先ほど蘭が凛を捕らえようとしたのも、ネアの気持ちを思ってのことだったのだ。

「――そろそろ、現実に戻るとするかねぇ?」

「ら、蘭さま…いえ、姐御!? それでは話が違いますぞ」

 ひっくり返ったような声に振り返れば、計画をぶち壊され慌てふためく神父、白の姿。
「この城を乗っ取り、女王に代わって意のままに操るとおっしゃったではないですか」

「はぁ? 何言ってんだい」
 大袈裟なほどに表情を歪める。

「あたしゃ、この城を好き勝手に改築したいって言っただけだよ? つまんない間取りだったからねぇ、罠もなけりゃ奈落もないし…」

 永遠とも思われる、長い沈黙の後。

「あ……、あんですと――――!!??」
 どこかの名作ゲームの美少女の決めゼリフを盗用し、絶叫する白。

「どーやら、オッサンの勘違いだったみたいやな」
「誰がオッサンですか! 私はまだ20代ですぞ!?」

「っていうか白さん、あなた手配書まわってますよ」
 にっこりと笑みながらクリンがちらつかせたポスターには、WANTED!の文字とともに描かれた白の人相書き。その下には。

『この者、城下のメイド喫茶での度重なる豪遊・食い逃げの疑いにより、異世界間一斉指名手配とする。DEAD OR ALIVE』

「なんやオッサン、賞金首やったんか」
 嬉々とした顔で腕を捲り上げるベルカに、両手を前に突き出し後ずさる白…。

「待たんかい、おらぁ!」
「ひーーっ、お助けをぉぉぉ!!」
 ここぞとばかりに凄む。全速力で逃げ去っていく白のローブの懐から、カードがこぼれ宙に舞った。

 凛の手のひらに落ちたそれは、最後の一枚、ハートの10――。

 途端、10枚のカードが、燃えるような紅い光に包まれた。凛の黒髪がふわりと舞い上がり、透き通るような金色に輝く。

「お疲れ様、『アリス』…」
 蘭の声にハッと顔を上げれば、ものすごい速さで世界を呑み込んでいく紅色の中、輝きながら消えていく仲間たちの姿。

「待ってください! ネアさんはどこにいるんですの!?」

 マスターがシルクハットの縁を持ち上げ、いつもの人の良さそうな笑みを浮かべる。
 若い彼らを影ながら見守る保護者――この物語の、真の語り部のように。

「黄色いレンガの道を、振り返らずに真っ直ぐ行ってごらん。そこにあの子はいるはずだから…」

 遠ざかる声。皆の身体の輪郭も少しずつ薄くなり…
 やがて、完全に光の中に消えた。

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